バセドウ病で眼球突出するのはなぜ?目が飛び出る原因と治療法を医師が解説


バセドウ病の症状では眼球突出「目が飛び出る」がよく挙げられます。眼球突出を治すには正しい知識が必要です。
この記事では、眼球突出の原因や治療法、手術法までを症例写真を用いて詳しく解説します。
監修医師
オキュロフェイシャルクリニック大阪
院長 相川 美和
大学病院皮膚科にて一般皮膚科・レーザー外来・腫瘍外来を担当し、さまざまな皮膚外科手術の経験をつみました。
その後、美容クリニックで美容皮膚科の診療にも従事し、さらに眼形成外科での診療経験も積み、他院で院長を務めました。
2024年よりオキュロフェイシャルクリニック大阪院の院長として、安全で根拠ある医療の提供を心がけています。
目次
バセドウ病で眼球突出する原因は?

バセドウ病では、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されます。この病気に伴う眼球突出は、眼球を動かす筋肉や眼球の後ろにある脂肪が増加することで、目が押し出されたような状態を指します。
目玉が飛び出すという表現を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、実際にはそれほど極端なものではありません。
眼球突出
過剰な甲状腺ホルモンは、まぶたを上下させる筋肉を収縮させるため、眼瞼後退という現象が起こります。これにより、まぶたが持ち上がり、下を向いたときに白目の部分が目立つようになるのです。
また、眼球を動かす筋肉やその周囲の脂肪組織に炎症が生じ、腫れが発生します。
この炎症によって体積が増加し、眼球が前方に押し出されることで引き起こされるのが、眼球突出です。
眼球突出と同時に、まぶたが腫れたり、上まぶたが下がりにくくなったりすることがあり、見た目に変化が生じることもあります。
甲状腺ホルモンの値に大きな異常が見られないにもかかわらず、眼球突出が強い患者様も存在します。これは、目の周りの炎症が甲状腺ホルモンの量ではなく、バセドウ病の発症原因である自己抗体によって大きく影響されるためです。
目の症状は時間が経つにつれて不可逆的になり、元に戻りにくくなります。バセドウ病による眼球突出は、眼球を動かす筋肉やその周囲の脂肪に炎症が起こり、腫れることで眼球が押し出されることによって生じます。
そもそもバセドウ病とは

- 人口1000人あたり0.2~3.2人と報告されています。
- 20〜30代の若い女性に多い病気です。
- 男女比は1:3~5くらいと言われています。
下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)が甲状腺ろ胞細胞のTSH受容体を刺激することによって甲状腺ホルモンは分泌されています。
バセドウ病は、このTSH受容体に対する抗体が体内で作られてTSH受容体を刺激し続け、甲状腺ホルモンが過剰に産生・分泌されることで起こる病気です。
TSH受容体に対する自己抗体が作られる原因は分かっていませんが、バセドウ病になりやすい体質を持っている人が、何らかのウイルス感染や強いストレスや妊娠・出産などをきっかけとして起こるのではないかと考えられています。
代謝をつかさどる甲状腺ホルモンや、交感神経系のカテコールアミンが過剰になるため、典型的には、動悸、体重減少、指の震え、暑がり、汗かきなどの症状がおきます。
その他、疲れやすい、軟便・下痢、筋力低下、精神的なイライラや落ち着きのなさが生じることもあります。
- 女性では生理が止まることがあります。
- 甲状腺は全体的に大きく腫れてきます(甲状腺はのどぼとけのすぐ下にあります)。
- 目がとび出たり目が完全に閉じないなど眼の症状が出ることもあります。
- その他、炭水化物の多い食事をした後や運動の後などに手足が突然動かなくなる発作が起こることがあり(周期性四肢麻痺)、特に男性によくみられます。
バセドウ病の眼球突出は治るの?治療法は?

バセドウ病は点滴や内服による治療を受けて安定期に入った場合でも、風邪のように完全に回復するわけではなく、以前とは全く異なる見た目や容姿になることがあります。
見た目や容姿に大きく影響する症状が、眼球突出やまぶたの腫れなどです。
これは「バセドウ病眼症(甲状腺眼症)」と呼ばれ、眼の筋肉や脂肪組織、涙腺に炎症が起こることで引き起こされます。
バセドウ病による目の異常が出ている場合でも、早期の診断・治療をすることで悪化の予防や改善が期待できます。「内科的な数値が安定すれば眼球突出も治る」などと間違ったことを言われていることもありますが、一度突出したら元には戻りません。
しかし、バセドウ病による眼球突出は、治療によって改善が可能な場合が多いです。治療法には、ステロイド治療や機能回復手術などがあります。
バセドウ病による眼球突出の治療法 | ||
---|---|---|
ステロイド療法 | 病期が遅い安定期では効果が出にくいことがあります。 | |
放射線治療 | 完全に治すことは難しいですが、病状の進行を抑えるためには効果的です。 | |
手術療法 | 眼球突出の手術法は3つあります。 眼窩減圧術という手術が行われることがあり、眼の周りの脂肪や骨を切除することで眼球突出を改善します。 |
さまざまな治療法を用いることで、眼球突出の症状の改善や緩和は可能ですが、完治の可否については医師の診断と治療計画に基づいて判断されます。
バセドウ病の眼球突出を放置するリスク

長い間放置しておくと目の筋肉や脂肪内の細胞が増殖し、元に戻らない(目が引っ込まない)こともあるため、異変を感じたら早く治療をすることが大切です。
バセドウ病による眼球突出を放置すると、視力障害や視野障害、ドライアイなどを引き起こす可能性があります。
眼に発症してから半年ほど経つと、症状が固定してしまい、治療効果が乏しくなります。後遺症として残る場合もあるため、早期に適切な診断を受けることが重要です。
眼球突出の手術法は3つ
眼球突出の主な手術法は以下の3つです。
- 眼窩(がんか)減圧
- 斜視手術
- 眼瞼手術
副腎皮質ステロイド・放射線治療などの内科的治療で治らなかった場合に、手術が必要となります。
下記にそれぞれ手術方法を3つ説明します。
眼窩(がんか)減圧
眼窩減圧術は、眼の周囲にある脂肪や軟部組織、骨を切除し、眼球の突出を改善するための手術です。
眼科の中では、かなり大掛かりな手術になるため、数週間の入院を必要としている施設もあります。そのような理由から、比較的軽度の眼球突出に対する手術を行っている施設はほとんどありません。
眼窩減圧術は、眼球の後ろにある組織を切除するもので、切除する部位によって手術の方法が異なります。眼球や筋肉は切除できないため、対象となるのは増加した脂肪と骨です。
骨は上下内外の4つの部分に分けられますが、上部は脳に近く、減圧効果が少ないため、通常は切除しません。切除が行われるのは内壁、下壁、外壁の3か所です。脂肪は眼球や筋肉、神経の周囲に散在しています。
眼窩脂肪の切除や眼窩外壁の切除では、新たに複視が発生する確率は約3%とされていますが、内壁や下壁の場合は10~50%と高く、新規複視のリスクが増加することが知られています。
内壁や下壁の骨は薄いため切除は容易ですが、その分複視が発生する可能性が高く、日常生活に支障をきたす危険性があります。また、下壁には頬の知覚神経が通っているため、引き起こすリスクが高まるのが知覚鈍麻です。
一方、眼窩外壁や眼窩脂肪の切除は新規複視の発生率が低いものの、脳や眼の重要な神経や血管に近いため、切除には特別な知識と経験が求められ、熟練した医師でなければ行うことができないという現実があります。
斜視手術
バセドウ病眼症では、眼球を動かす筋肉が肥大し、硬くなることがあります。
その結果、両眼が異なる方向を向くことがあります。
斜視手術は、眼を動かす筋肉を調整することで、両眼の向きを揃えることが可能です。
当クリニックでは手術を行わず、専門の病院をご紹介することにしています。
眼瞼手術
眼瞼手術は、バセドウ病・甲状腺眼症治療の 最終段階に行うもので眼窩減圧術もしくは斜視手術のあとで選択されます。
バセドウ病眼症では上眼瞼が吊り上がる、眼瞼後退という状態になっていることがあり、最後に行うのが、眼瞼手術です。
状態によっては上眼瞼のみならず下眼瞼にも行うことがあります。また眼瞼に増えた脂肪を切除することもあります。眼球突出に伴って逆さまつ毛を発症する場合もありますので、その手術を行うこともあります。
当院の手術

当院では専門的な知識・経験をもとにできる限り整容的な観点を重視した手術を行っています。
他院で手術の適応がないと断られた方々でも当院で手術を行う方は多くおられます。
バセドウ病の眼球突出の手術例
眼窩脂肪を切除する術式や、外壁を削る術式を第一選択とし、 複視の頻発する下壁・内壁の除去を避けることで複視の発生率を下げるよう努力をしています。
また、これらの手術を行う際に、まぶたの裏の結膜や皮膚のシワの中を切開するため、傷跡はほとんど残りません。さらに手術回数が少なくなるよう、両眼同時手術を行っています。
当院で行った眼球突出手術の一部をご紹介します。
主訴 | 治療内容 | 術前 | 術後 |
---|---|---|---|
バセドウ病眼症 | ・ステロイドパルス ・眼窩(がんか)減圧 ・追加脂肪切除 ・斜視手術(他院にて) 治療前後を比較すると非常にキレイになり、顔つきが全く違うことが分かるかと思います。 手術をすることで治療前後の差は一目瞭然で、発症前の美しい顔立ちに戻ることができました。 |
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バセドウ病眼症 |
眼窩減圧術 眼瞼手術 眼窩減圧術もしくは斜視手術のあとで選択されます。 バセドウ病眼症では上眼瞼が吊り上がる、眼瞼後退という状態になっていることがあり、最後にこの手術を行います。 状態によっては上眼瞼のみならず下眼瞼にも行うことがあります。 また眼瞼に増えた脂肪を切除することもあります。 眼球突出に伴って逆さまつ毛を発症する場合もありますので、その手術を行うこともあります。 |
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バセドウ病眼症 顔貌の変化と左右差のある眼球突出 20代女性 発症前の写真 ![]() |
眼窩減圧術 発症前の顔貌から、術前の顔貌へ大きく変化してしまっていることが分かります。 右目の見開きが大きく、上下の白目の露出が非常に大きくなっています。 それに伴い左右差のある顔貌となっています。 眼窩減圧を行って術後には顔貌がかなり改善しているのがわかります。 さらに減圧をすることも出来たのですが、大きな改善が得られ満足されましたのでこれで終了となりました。 |
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バセドウ病眼症 顔貌の変化と左右差のある眼球突出 30代女性 発症前の写真 ![]() |
眼窩減圧術 眼窩減圧手術により美しい顔つきになっていることが分かります。 体的には上のまぶたの腫れぼったさが無くなり、二重瞼のラインが深くなっています。 |
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バセドウ病眼症上下のまぶたの腫れ | 眼窩減圧術 バセドウ病眼症により術前にあった上下のまぶたの腫れが、 術後には無くなってスッキリした状態になっているのが分かります。 眼球突出が軽減するとドライアイ症状(充血する、ごろごろする、涙目になるなど)も改善します。 |
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手術のリスクは?
手術によって創部に内出血が生じます。
内出血は初めは赤いアザのように見えますが、次第に黄色く変色し、重力の影響で皮下に移動しながら約3週間で消えていきます。
腫れは最初の2週間でほぼ改善されますが、完全に消えるまでには約半年かかります。
もし創部に血腫ができた場合は、除去手術が必要です。
術前に複視がなかった場合でも、手術後には眼球運動障害が現れ、二重に見えることがあります。
時には症状が残ることもありますが、多くの場合翌日には改善されることがほとんどです。
複視が残った場合は、3から6か月の間に徐々に改善しますが、脂肪切除のみでは0-3%、外側壁では3-6%、内側壁では10-65%の確率で複視が残るとされています。
その場合、斜視手術が必要になることもあります。
また、正面視では複視が出なくても、周辺視野(上下左右)で複視が残る可能性は10%です。
手術は意図的に眼球を凹ませるため、まぶたが凹むなど顔貌に変化が生じます。
目標は日本人の平均値である15mmに設定していますが、顔貌の変化に伴い二重のラインの形状や下まぶたの腫れ方が変わることがあります。
中には、バセドウ病発症前よりも凹んでしまったと感じる方もいます。
術後には瞳が広がったり、近くが見えにくくなることがありますが、これも半年程度で徐々に改善します。
眼に関わる重要な神経や血管に障害が生じると、失明に至るような視力や視野の障害が発生することがあります。
その発生率は軽度のものも含めて約1%です。
脳に近い部位で手術を行うため、感染症などが起こると重篤な状態になる可能性があります。
また、手術をきっかけに甲状腺クリーゼという致死的な病気が発症するリスクも指摘されています。
発症率は入院患者50万人に1人、致死率は10%で、500万人に1人の割合です。
術後、傷跡は徐々に目立たなくなりますが、目立ったりケロイドになることもあります。
術後に傷が開いた場合は、再度縫合が必要です。
また、感染などによって眼窩蜂巣炎を引き起こすこともあります。
まとめ
多くの方がバセドウ病や甲状腺眼症による眼球突出に悩んでいますが、これらの病気に対する手術を行っている医療機関は全国で数えるほどしかありません。
また、眼科での手術は大規模なものとなるため、数週間の入院が必要な施設も存在します。
このため、比較的軽度の眼球突出に対する手術を行う施設はほとんどありません。当院では、専門的な知識と経験を活かし、できる限り整容的な観点を重視した手術を提供しています。
他の医療機関で手術の適応がないと断られた方々も、当院で手術を受けるケースが多く見られます。また、治療ができないと諦めていた方々が、発症から何十年も経過した後に手術を受けに来院されることもあります。
眼球突出についてお悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
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オキュロフェイシャルクリニック大阪
日本専門医機構認定皮膚科専門医
院長 相川 美和
大学病院皮膚科にて一般皮膚科・レーザー外来・腫瘍外来を担当し、さまざまな皮膚外科手術の経験をつみました。
その後、美容クリニックで美容皮膚科の診療にも従事し、さらに眼形成外科での診療経験も積み、他院で院長を務めました。
2024年よりオキュロフェイシャルクリニック大阪院の院長として、安全で根拠ある医療の提供を心がけています。