バセドウ病が妊娠に与える影響は?赤ちゃんへの影響はある?

バセドウ病患者が妊娠すると、流産やダウン症などの危険性が増すとよく言われますが、正しい治療をしていれば特に問題はありません。
この記事では、バセドウ病と妊娠の関係性について詳しく解説しています。

監修医師
オキュロフェイシャルクリニック大阪
院長 藤田 恭史

大学病院などで一般眼科から眼形成外科まで幅広く診療経験を積み、さまざまな手術に携わってまいりました。
眼瞼下垂、甲状腺眼症、涙道の疾患といった目のまわりのトラブルに対しては、見た目の自然さに配慮するのはもちろん、視機能や眼球表面への影響にも十分に注意を払いながら治療を行っています。

目次

バセドウ病の人は妊娠しにくいの?

バセドウ病の人は妊娠しにくいの?​

バセドウ病とは、甲状腺ホルモンの過剰分泌によって引き起こされ、動悸、体重減少、月経不順などの「甲状腺機能亢進症」と呼ばれる症状があらわれる病気です。
甲状腺機能亢進症の症状が出ると、排卵障害が生じることがあり、不妊症との関連が指摘されています。
しかし、バセドウ病は治療によって甲状腺機能をコントロールし、症状を軽減することが可能です。
甲状腺機能が適切に管理されている場合、妊娠率には大きな影響がないとされています。
妊娠を希望する方は、しっかりとした診療を受けることが非常に重要です。

妊娠を希望する場合の注意点は以下のとおりです。

  • 妊娠を希望する際は、まず主治医としっかり相談し、治療計画を立てることが大切です。
  • 妊娠前に甲状腺機能を安定させるため、薬物療法を始めることが望ましいです。
  • 妊娠中は、定期的に甲状腺ホルモン値を測定し、異常がないか確認しましょう。
  • 妊娠中の薬物療法を選ぶ際は、胎児への影響をしっかり考慮する必要があります。
  • 妊娠中に甲状腺機能が変動した場合は、すぐに主治医に相談し、適切な対処を行いましょう。

バセドウ病が妊娠に与える影響

バセドウ病が妊娠に与える影響​

バセドウ病の人が妊娠した場合、一時的に甲状腺ホルモンが過剰に分泌される「妊娠一過性甲状腺中毒症」になる可能性があります
バセドウ病の母体の甲状腺刺激活性を持つ抗体(TSH受容体抗体)が胎児に移行すると、
新生児バセドウ病(新生児一過性甲状腺機能亢進症)を引き起こすこともあります。

妊娠初期において、約5%の妊婦に見られる現象が「妊娠一過性甲状腺中毒症」と呼ばれています。
この状態は、胎盤から分泌されるhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)が甲状腺を刺激することによって引き起こされ、結果として甲状腺ホルモンが上昇します。
hCGのレベルは妊娠7〜11週にピークを迎え、その後は低下するため、甲状腺ホルモンは妊娠14〜18週には自然に改善されることが一般的です。

特に、つわりの症状が強い場合や多胎妊娠のケースでよく見られますが、甲状腺ホルモンの上昇は通常軽度であり、特別な治療を必要としないことがほとんどです。
バセドウ病との鑑別診断は、TSH受容体抗体(TRAb)を用いて行われ、TRAbが陽性であればバセドウ病、陰性であれば妊娠一過性甲状腺中毒症の可能性が高いと判断されます。

バセドウ病が赤ちゃんに与える影響

バセドウ病が赤ちゃんに与える影響​

バセドウ病の治療が不十分な場合、血液中の甲状腺ホルモン値が高くなる(甲状腺機能亢進症)ことで、流産や早産、妊娠中毒症といったリスクが増加することが知られています。
また、母体の血液中に抗TSH受容体抗体(TRAb)が高値で存在する場合、胎児や新生児に甲状腺機能亢進症が見られることもあります。

母親が適切に抗甲状腺薬を服用していれば、その薬は胎児にも移行し、一緒に治療が行われるため、特に心配する必要はありません。
ただし、
妊娠中にTSH受容体抗体(TRAb)の値が高い場合は、バセドウ病の治療を担当する医師が産科医に情報を提供し、産婦人科との密接な連携が重要です。
胎児への影響を考慮し、適切な治療を進めるために、両方の医師とよく相談しましょう。

出生後、胎児に移行していた抗甲状腺薬の効果が切れると、産後4〜5日頃から新生児が一過性の甲状腺機能亢進症を発症することがあります。
この状態は生後約3ヶ月で自然に回復しますが、その際は小児科医と連携して経過を観察することが推奨されます。

また、奇形やダウン症などの障害児が生まれるリスクについては、抗甲状腺薬を適切に使用すれば、健常な妊婦と比較して差はありません
ただし、使用する内服薬によっては新生児に先天異常が報告されているケースもありますので、妊娠を希望する女性は、
妊娠前に担当医にバセドウ病の管理状況や内服薬の注意点を確認することが重要です。

妊娠とバセドウ病の治療方法

バセドウ病と妊娠は、医師による適切な管理が必要です。
治療は抗甲状腺薬の服用が中心です。
一般的には抗甲状腺薬によって奇形の頻度が増すとの証拠はありません。
治療しないでホルモンが多いままにしておくほうが害が大きいと考えられています。
妊娠したことが判った途端に薬を止めてしまうことは誤りです。
薬が必要な場合は妊娠中も継続が必要です。

妊娠前のバセドウ病治療

妊娠前のバセドウ病治療

維持量(1日1〜2錠)のPTU(チウラジール®、プロパジール®)内服で甲状腺機能がコントロールされてから計画的に妊娠することができれば何ら問題はありません。
甲状腺を摘出し、甲状腺ホルモンの生成を抑える手術は、妊娠を希望し、早期の回復を望む方にとって推奨される治療法です。

この方法の最大のメリットは、迅速かつ確実に治療効果を得られることです。
デメリットは、手術のために約1週間の入院が必要で、その間は仕事を休むことになります。
また、手術後には傷跡が残る可能性があり、合併症によって何らかの障害が生じるリスクもゼロではありません。
さらに、術後は生涯にわたって「甲状腺ホルモン薬」を服用する必要がある場合が多く、これを今後の生活スタイルに照らし合わせて考慮することが重要です。
「甲状腺ホルモン薬」は副作用もなく、きちんと飲み続ければ心配のない薬です。
また、甲状腺をすべて摘出すれば、バセドウ病が再発することはありません。

アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)は、ヨウ素が体内に取り込まれると甲状腺に集まるという性質を利用して、ごく弱い放射線を出す「医療用放射性ヨウ素」という薬剤を入れたカプセルを服用し、甲状腺の細胞を壊すという治療法です。
周囲の臓器への影響もなく、安全性が確立された治療法で、アメリカなどではバセドウ病治療の第1選択となることもあります。
バセドウ病をアイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)で治療した場合、治療から妊娠まで1年以上あれば妊娠経過や胎児に影響はないと考えられています。

妊娠中や妊娠の可能性がある女性、または授乳中の女性は、アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)を採用することができません。
また、アイソトープ治療(放射性ヨウ素内用療法)後、男性は4~6ヶ月、女性は6ヶ月間避妊が必要と考えられていますので、近い時期に妊娠を希望する場合には、医師と相談の上、別の治療法を検討しましょう。

妊娠中のバセドウ病治療

薬物治療はしっかりと受けましょう。
妊娠したことが判った途端に治療を止めてしまうことは誤りで、妊娠中だからといって、薬の量を減らす必要もありません。
必要な分だけしっかりと服用し、早く甲状腺機能を正常に戻すことが大切です。

妊娠が進むにつれて、バセドウ病は次第に安定してきます。
妊娠後半には、薬の必要量が減少し、場合によっては中止することも可能です。
治療中は、胎児の血中の甲状腺ホルモン値が母体よりも低めになることが多いため、母体の甲状腺ホルモン値を正常の上限から少し高めに保つように調整します。
また、妊娠後半には母体のTRAbを測定し、新生児の甲状腺機能亢進症のリスクを確認しておくことが重要です。

バセドウ病の患者さんが妊娠しても、甲状腺機能が正常化すれば、一般の妊婦さんと変わりなく出産できます。
妊娠中は、母体と胎児の健康を考慮して、適切な治療と管理を行うことが重要です。

出産後のバセドウ病治療

バセドウ病の状態にもよりますが、出産後も抗甲状腺薬の服用はつづける必要があります。
産後には、病気が再発したり悪化することがあるからです。
また、甲状腺機能が一時的に亢進する「無痛性甲状腺炎」が発生することもあり、全ての産後女性の中で約20人に1人が、出産後に何らかの甲状腺機能異常を経験すると言われています。
この状態を、産後の体調不良や育児ノイローゼと誤解している方も多く、さまざまな症状が見られる場合は、甲状腺機能の検査を受けたほうがよいでしょう。

甲状腺機能異常が起こる理由としては、元々甲状腺に異常があった場合、妊娠や出産によるストレスが母体の免疫系を乱し、甲状腺の細胞が破壊されることで甲状腺ホルモンが漏れ出すことがあげられます。
甲状腺機能は約3ヶ月間一時的に上昇しますが、その後は低下し、多くの場合、自然に改善されることが多いです。

さらに、出産後5〜8ヶ月にかけて甲状腺ホルモンが上昇する場合は、バセドウ病の可能性が高く、抗甲状腺薬が必要になることがあります。
甲状腺自己抗体が陽性の妊婦は、産後2〜3ヶ月と6ヶ月に甲状腺機能検査を受けることが望ましいでしょう。
産後も医師に継続的に経過を見てもらうことが重要です。

バセドウ病治療中の授乳について

バセドウ病治療中の授乳について​

バセドウ病を抱えていても、薬で甲状腺ホルモンのバランスを正常に保てれば、授乳は可能です。
バセドウ病治療中の授乳で気を付けることは、主に抗甲状腺薬の母乳への移行と、母乳による乳児への影響です。
抗甲状腺薬は母乳に移行しますが、薬の種類や用量によって影響の程度が異なります。
少量であれば母乳に移行しても問題ないことがほとんどですが、服用量が多い場合は授乳を制限したり、人工乳との混合栄養の検討が必要です。

放射性ヨウ素療法を受けた場合は、無機ヨウ素は母乳に濃縮されるため、授乳は控える必要があります。
主治医としっかり相談し、適切な治療と授乳方法を選ぶことが大切です。

バセドウ病が出産後に悪化した場合は、抗甲状腺薬の再開や増量が必要です。
抗甲状腺薬はわずかに母乳に移行するため、投与量によっては授乳に制限がかかることがあります。
例えば、PTU(チウラジール®、プロパジール®)は、一日300mgまでは授乳が可能、または、MMI(メルカゾール®)は使用量や服用方法によって授乳ができる場合もあるといったように、状況によって異なります。

甲状腺機能亢進症の程度に応じて薬の投与量が変わるため、授乳が可能かどうかは、主治医に確認しておきましょう。

まとめ

バセドウ病があっても、適切な治療と管理で妊娠・出産は可能です。
専門医と協力して、安心して赤ちゃんを迎えられるように準備を進めましょう。

妊娠・出産におけるバセドウ病のリスクと注意点は以下のとおりです。

甲状腺ホルモン異常 治療を受けていないバセドウ病では、甲状腺ホルモンが過剰に分泌され続けるため、流産や早産、妊娠高血圧症候群のリスクが高まります。
さらに、胎児の甲状腺機能に異常が生じる可能性や、新生児バセドウ病のリスクも懸念されます。
薬の影響 妊娠初期にメルカゾールを服用していると、胎児に影響を及ぼす可能性があり、先天異常のリスクが高まることがあります。
妊娠を計画する際には、専門医としっかり相談し、薬の種類や量を見直すことが重要です。
妊娠中の治療 妊娠中は甲状腺ホルモンの変動が大きいため、定期的な検査と薬の調整が欠かせません。
また、バセドウ病の自己抗体(TRAb)は胎盤を通じて胎児に影響を与える可能性があり、新生児バセドウ病のリスクも考慮する必要があります。
出産後の注意 出産後は、ホルモンバランスが急激に変化するため、バセドウ病が再燃したり、悪化したりすることがあります。
そのため、薬の影響を考慮しつつ、授乳についても慎重に判断することが求められます。
  • 妊娠を希望する前に、専門医に相談し、甲状腺機能が正常にコントロールできるか、または薬の種類や量を調整してもらえるかを確認することが大切です。
  • 妊娠は計画的に行い、甲状腺機能が安定してから始めることをお勧めします。
  • 妊娠中は、薬の種類や量を調整する必要が出てくることがありますので、専門医の指示に従い、適切な薬の服用を続けましょう。
  • 妊娠中は定期的に甲状腺ホルモンの検査を受け、必要に応じて薬の量を調整することが重要です。
  • 出産後は、新生児の甲状腺機能検査を行い、異常がないかを確認しましょう。

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