バセドウ病によるまぶたの腫れは治る?原因や治療法をわかりやすく解説
バセドウ病によるまぶたの腫れは、ステロイド治療、放射線治療、局所注射、手術などで治療できます。
重症度によって適切な治療法が異なるため、正しい知識が重要です。
本記事では、バセドウ病によるまぶたの腫れの原因と治療法について詳しく説明します。
監修医師
オキュロフェイシャルクリニック大阪
院長 藤田 恭史
大学病院などで一般眼科から眼形成外科まで幅広く診療経験を積み、さまざまな手術に携わってまいりました。
眼瞼下垂、甲状腺眼症、涙道の疾患といった目のまわりのトラブルに対しては、見た目の自然さに配慮するのはもちろん、視機能や眼球表面への影響にも十分に注意を払いながら治療を行っています。
目次
バセドウ病によるまぶたの腫れは治る?
バセドウ病によるまぶたの腫れ(甲状腺眼症)は、適切な治療を受けることで改善する可能性があります。
バセドウ病によるまぶたの腫れ(甲状腺眼症)の治療には、炎症の活動期にはステロイド療法や放射線治療が選ばれ、非活動期には手術などの選択肢があります。
早期から適切な治療を受けることで、症状の悪化を防ぐことができるため、バセドウ病によるまぶたの腫れが疑われる場合は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。
バセドウ病でまぶたが腫れる原因は?

バセドウ病によるまぶたの腫れは、「バセドウ病眼症」または「甲状腺眼症」と呼ばれる症状の一つです。
この病気は自己免疫の異常によって引き起こされ、まぶたや眼球の後ろにある組織に炎症が生じることで現れます。
バセドウ病眼症・甲状腺眼症は、甲状腺の疾患に関連して発生することが多い眼の病気です。
しかし、甲状腺の機能やホルモンの値が正常で、体に他の症状がないにもかかわらず、目にだけ症状が現れることもあります。
これは、バセドウ病眼症・甲状腺眼症が甲状腺ホルモンの異常だけによって引き起こされるわけではないことを示しています。
バセドウ病は自己免疫疾患であり、免疫系の異常により、本来攻撃されるべきでない自分の眼球周囲の正常な組織が免疫の攻撃を受けます。
この結果、炎症が生じ、さまざまな眼の症状が現れるのです。
バセドウ病でまぶたが腫れる主な原因は以下のとおりです。
- 自己免疫・自己抗体と炎症
- 上眼瞼挙筋
- 眼窩脂肪
- 眼輪筋
- 涙腺
自己免疫・自己抗体と炎症
「バセドウ病眼症」または「甲状腺眼症」が発生するのは自己免疫が原因です。
自己免疫では、体内の組織に影響を与える自己抗体が生成され、血液検査で陽性反応が確認されます。
これらの自己抗体が眼の周囲の組織に作用して、炎症が引き起こされるのです。
炎症が生じると、組織が膨張したり、時間が経つにつれて硬くなり、元の柔軟性を失ったりすることがあります。
また、自己免疫は脂肪細胞の増加を促す作用も持っています。
上眼瞼挙筋
上眼瞼挙筋は上まぶたを持ち上げる役割を果たす筋肉です。
眼窩の奥からまぶたの先端にかけて伸びています。
この筋肉に炎症が生じると、まぶたが腫れ、筋肉の伸びが悪くなるため、上まぶたが引っ張られ、見開きが強くなります。これが、上眼瞼後退という状態です。
通常、上まぶたは黒目(角膜)に約2mmかぶさっていますが、見開きが強くなると白目(結膜)が露出することがあります。
また、下を向くときにはまぶたが目を覆うように下がりますが、下がりが悪くなると眼球が多く露出してしまいます。
上眼瞼挙筋の炎症は、目を閉じようとしても上手く閉じられず、目が乾燥したり、寝ている間に目が開いてしまう状態を引き起こします。
眼窩脂肪
眼球の周りには多くの脂肪組織が存在しています。
バセドウ病眼症・甲状腺眼症では、自己免疫の影響により脂肪細胞が増加し、その結果、体積が増大します。
脂肪細胞の増加がまぶたの腫れや眼球の突出を引き起こす原因です。
眼輪筋
眼輪筋は、まぶたの浅い部分に位置し、目を取り囲むように存在する筋肉です。
この筋肉は主にまぶたを閉じる際に働きます。
多くのバセドウ病眼症・甲状腺眼症のMRI で最も腫大が目立ったのは眼輪筋でした。
眼輪筋の腫れは、まぶた全体の腫れを引き起こすことがあります。
涙腺
バセドウ病眼症・甲状腺眼症では、涙腺が腫れることがあります。
涙腺は、上まぶたの外側に位置する涙を生成し分泌する組織です。
MRIを用いると、涙腺の腫大が明確に確認できますが、時には涙腺が下がっている(脱臼)こともあります。
涙腺が腫れると、上まぶたの外側に腫れが目立つようになります。
バセドウ病によるまぶたの腫れの特徴


バセドウ病の目の症状には、まぶたの腫れや上まぶたが過剰に持ち上がる「眼瞼後退」が含まれます。
二重まぶたの形が変わったり、白目が目立ってきたりします。
眼球が前方に突出する「眼球突出」も起きるのもバセドウ病の特徴的な症状です。
「まぶたが腫れぼったい」「目がとびだしてきたように感じる」といったバセドウ病特有の顔つきとなっていきます。
バセドウ病によるまぶたの腫れの治療法は?
バセドウ病によるまぶたの腫れの治療法は、眼症の重症度によって異なります。
重症度に応じた治療法については、以下のとおりです。
重症度 | 治療法 | 状態 |
---|---|---|
最重症例 | ステロイド治療 (免疫抑制療法) |
失明の危険性がある |
中等症~重症例 | 免疫抑制療法または放射線照射療法 | 炎症が活発に起こっている |
機能回復手術 | 炎症が治まっており、目の症状が残っている | |
軽症 | 局所注射または経過観察 | 日常生活への障害がわずか |
バセドウ病によるまぶたの腫れの治療法①ステロイド治療
ステロイド治療(免疫抑制療法)は、最重症例または中等症〜重症例かつ活動性の眼症だと診断された場合に第一選択となる治療法です。
炎症を鎮静化させて、甲状腺眼症の活動性を抑えることを目的に行われます。
具体的な治療内容・流れについては以下のとおりです。
治療内容・流れ | ||
---|---|---|
① | 1クール(メチルプレドニゾロンを1日1g、3日間連続して投与)を3クール繰り返す方法(Daily法) | |
② | メチルプレドニゾロンの1回投与量を0.5g未満に減量する、または総投与量を8g未満に減量する方法 | |
③ | メチルプレドニゾロンを週に1回0.5g、計6回投与し、そのあと週に1回0.25g、6回投与する方法(weekly法) |
ステロイド治療(免疫抑制療法)の有効性は77%だと報告されています。
また、ステロイド治療(免疫抑制療法)によって引き起こされる可能性のある副作用は、以下のとおりです。
- 消化性潰瘍
- 糖尿病(耐糖能異常)
- 感染症(結核)
- 骨粗鬆症の悪化
- 劇症肝炎
- 心停止
- 精神症状
まれに重篤な副作用が起こることがあるため、治療前によく医師の説明を受けるようにしてください。
バセドウ病によるまぶたの腫れの治療法②放射線治療
放射線治療はリンパ球の破壊をする目的で行われる治療法で、活動期かつ中等症〜重症例の眼症、また35 歳以上の人が対象です。
まぶたの腫れ・むくみや外眼筋腫大、視神経症に対しての効果は期待できますが、眼球突出に対する効果はあまり期待できません。
放射線治療では計15〜20Gyの照射を2週間で行うのが一般的で、経過に合わせて再照射が行われることもあります。
放射線治療を単独で行った場合の有効性は59%(ランダム化比較試験での有効性は44%)であり、ゆるやかに効果が現れるという特徴があります。
また、放射線治療によって引き起こされる可能性のある副作用は、以下のとおりです。
- 一時的な炎症の増悪
- 白内障
- ドライアイ
- 網膜症の進行
- 局所の脱毛
- 頭頸部腫瘍の発生
一時的に炎症が悪化する可能性があるため、プレドニゾロン(15〜30mg)の内服が必要になるケースもあります。
バセドウ病によるまぶたの腫れの治療法③局所注射
局所注射は、眼症が軽症で、日常生活への障害がわずかな場合に選択される治療法です。
まぶたの腫れや上眼瞼後退がある場合、またMRIで眼瞼部の炎症、まぶたの脂肪組織の腫大や、上眼瞼挙筋の肥大・炎症があると認められた場合に行われます。
トリアムシノロンの局所注射が一般的ですが、軽症〜中等症の斜視がある場合はボツリヌス毒素の局所注射が行われるケースもあります。
投与する薬剤の種類にもよりますが、起こりうる副作用は以下のとおりです。
- 緑内障
- 後のう白内障
- 失明
- 視力障害
- 色素沈着
- かゆみ
- 血栓症
バセドウ病によるまぶたの腫れの治療法④手術
機能回復手術は、中等症〜重症例で、炎症が落ち着いた非活動性の眼症ではあるものの、目の症状が残っている場合に行われる治療法です。
主な方法は以下のとおりです。
眼窩脂肪減圧術
眼の周りの脂肪や骨を切除し、増えた体積を減らすことで眼球突出を改善する方法です。
斜視手術
眼を動かさずに筋肉の位置を移動させ、目の位置を調整することで斜視を改善する方法です。
眼瞼手術
上眼瞼挙筋(じょうがんけんきょきん)を短くする、または筋膜を吊り上げることで、まぶたの腫れや眼瞼後退、睫毛内反症(逆さまつげ)を改善する方法です。
治療方法によっても異なりますが、起こりうる副作用は以下のとおりです。
・出血
・痛み
・赤み
・創部感染
・縫合不全
・麻酔・薬剤アレルギー
・再発・腫瘍の残存
・ケロイド
・瘢痕(傷跡)
まとめ
バセドウ病は主に女性に多く見られる甲状腺疾患で、1000人中2〜6人いると言われており、女性患者が男性患者より5倍と多いのも特徴としてあげられます。
まぶたの腫れは、バセドウ病眼症・甲状腺眼症において最も一般的な症状です。
適切な治療を受けることで改善が期待できます。
バセドウ病によるまぶたの腫れは、見た目の変化として、特に女性にとって悩みの種となりやすい症状です。
治療法には、ステロイド、放射線治療、手術などがあり、医師に相談して適切な治療を受けることが大切です。
医療的な治療と精神的なサポートを組み合わせることで、コンプレックスを軽減し、日常生活を送ることが可能です。
ただし、バセドウ病・甲状腺眼症の大きな問題点は、点滴や内服の治療を受けて安定期に入っても、風邪のように治ったら元通りではなく、以前とは全く異なる見た目・容姿になってしまうことです。
POINT
当院では、眼球突出の状態や眼瞼の状態に応じて眼窩減圧術や眼瞼手術を行うことでできるだけ元の表情に戻すことを目標に手術の計画を立てます。
また、当院は眼形成という目の周りの眼瞼や眼窩を専門にしており、ステロイド治療(免疫抑制療法)においても眼窩深部の炎症のある部位に直接作用する注射を行うことによって効果が高く、効果の持続性にすぐれ、副作用も非常に少ない治療が可能です。
バセドウ病によるまぶたの腫れ、顔つきの変化にお悩みの方は、ぜひご相談ください。
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オキュロフェイシャルクリニック大阪
院長 藤田 恭史
大学病院などで一般眼科から眼形成外科まで幅広く診療を行い、多くの手術に携わってまいりました。
眼瞼下垂や甲状腺眼症、涙道の疾患など、目のまわりに生じる症状に対し、見た目の自然さを大切にしながら、視機能や眼球の健康にも十分配慮した治療を行っています。
当院では、流行に左右されず、医学的な裏付けに基づいた治療にこだわることで、機能面・整容面の両方にご満足いただける診療をめざしています。